Flow人工股関節・手術の流れについて

人工股関節置換術とは?

関節疾患の場合でも、程度が軽い場合は、投薬療法や理学運動治療といった保存的療法で症状を和らげることができます。

ただし、痛みが継続する場合や、歩行能力の回復が見込めない場合、また関節リウマチが進行した場合には、人工股関節置換術などの手術療法が必要になります。

人工股関節置換術とは、傷ついた股関節を、関節の代替として働くインプラントと呼ばれる人工股関節部品に置き換える手術です。通常、医師は特殊な精密器具を使って骨の損傷面を取り除き、そこへ代わりのインプラントを固定します。

インプラントはカップ・ライナー(インサート)・ヘッド・ステムという4つの部品から構成されています。

臼蓋側(屋根側)にはカップを設置します。チタン合金でできたものがほとんどです。

その中にライナー(インサート)といって、人間の軟骨の役目をする部品を挿入します。材質は超高分子ポリエチレン、セラミック、金属でできたものがあります。

ステムは骨親和性のよいチタン合金とコバルト・クロム合金でできたものがあります。ヘッドはコバルト・クロム合金やセラミックでできています。

ライナー(インサート)とヘッドの組合せは、ポリエチレン- 金属、ポリエチレン- セラミック、セラミック- セラミック、金属- 金属などの組合せがあります。

ナビゲーションシステム

当院の人工股関節全置換術では、先進医療の「ナビゲーションシステム」を導入しております。

人工股関節全置換術の手術を行う際に最も大切なことは、手術前計画をしっかりと行い、それを実際の手術時に正確に再現させることが重要であります。具体的にはインプラントを適切な位置に適切な角度で強固に設置し、そして脚の長さをベストな長さに整えることが重要です。インプラントの設置位置・設置角度の不良は、手術後の脱臼や、インプラントの摩耗などの原因となります。手術前に撮影したCTの三次元構成画面を参照しながら骨盤座標系を作成し、これらを参照しながら術前計画通りにインプラントを最適な位置に設置し、安全・安心な手術を実現させるために、私たちの施設ではナビゲーションシステムを導入しております。

手術ナビゲーションシステムは、カーナビゲーションと同様に、手術中に骨の三次元的な位置を正確に把握し、術前計画(図1)に沿って手術操作を行うことを手助けします。カーナビゲーションはGPS用人工衛星からの電波を車が受信して、もともと描かれている地球の地図上に車の現在位置を示します。一方、手術ナビゲーションシステムでは、骨(骨盤)にはもともとは地図が描かれておりません。そこで、骨(骨盤)に赤外線マーカーを取り付け、ここから出される赤外線を三次元センサーのカメラで、術前に撮影したCTの三次元的構造を捉えることにより骨に地図を描くことが可能になります。図2が当院で使用している手術ナビゲーションシステム(Stryker 社製 CT-based Hip Navigation)の機械本体の概観で、本体に三次元センサーの 赤外線カメラが取り付けられています。図3がこのシステムの赤外線マーカー(トロッカー)で、電池 が内蔵されており複数のLEDから赤外線が発光されるようになっています。この赤外線マーカー(トロッカー)を骨や術具に取り付けます。 術中は、図3のように、骨(骨盤)にピンを2本刺して赤外線マーカー(トロッカー)を取り付けます。次に、図4①のようにLED付きポインターの先端で術前に撮影した骨盤骨CT画像上の重要な約5か所の取得(Paired point matching)と、図4②他の部位の骨盤骨表面(最低30ポイント)の取得で位置情報を集め(surface geometry matching)、 術前CT画像上の骨の画像とマッチングさせ、ここで始めて骨盤骨上に地図が描かれます。手術中は、この地図を利用し、常に骨の位置や向きを正確に計測することができ、モニター画面上で術前計画を表示させながらまた、術具にも赤外線マーカーを取り付け(図5)、術具の位置と向きを確認できて、確実に手術前に計画していたインプラントの設置を正確に行うことができます(図6)。これがナビゲーションシステムの最大のメリットであります。

手術の流れ

検査

麻生リハビリ総合病院外来にて手術前検査を行い、全身状態をチェックします。必要に応じて当院の内科を受診していただくこともあります。
通院が困難な患者様は少し余裕をもって入院していただき、全身状態をチェックすることも可能です。

自己血採血

手術ではあり程度の出血が予想されますので、貧血でない患者様や80歳以下の患者様は外来にて自己血をあらかじめ採っておきます。
量は400~800cc(1回400cc)です。保存期間は5週間可能となっています。
自己血は患者様自身の血液を用いるため、感染や免疫反応などの輸血に伴う副作用を回避できるというメリットがあります。

インフォームドコンセント

インフォームドコンセントとは、手術などに際して医師が病状や治療方針をわかりやすく説明し、患者様の同意を得ることです。基本的に外来でお話しいたします。
インフォームドコンセントの主な内容は以下の通りです。

  • 手術の目的
  • 手術方法
  • 手術によって期待できる効果
  • 麻酔の危険性について
  • 輸血について
  • 合併症について
  • リハビリテーションについて

合併症

麻酔に関するもの、感染、下肢深部静脈血栓症、肺塞栓症、出血ならびに輸血のリスク、関節可動域制限、脱臼、ゆるみ、骨折、金属・セメントアレルギー、異所性骨化、神経麻痺など。
金属アレルギー疑いのある患者様は、パッチテストというものを行い実際にアレルギーがあるかどうかを調べることもあります。
※上記の合併症の中で最も重要なのは、下肢深部静脈血栓症などが原因で起こる肺塞栓症です。下肢の深部静脈に血栓ができて、下肢の皮膚は変色(紫色か赤色)し、むくみ(浮腫)を生じます。
しかし、症状がない時もあります。特に血管の走行上の原因で左下肢に起きやすいです。原因は血液のうっ滞がほとんどで、他に血管障害、血液凝固能の亢進などがあります。
血栓が肺にいくと肺梗塞を起こし、体に酸素が取り込みにくくなり重篤になる時があります。よって、肺梗塞の原因の一つの深部静脈血栓症を起こさない予防が大切です。

当院での予防法

  • 下腿から足に弾性ストッキングや弾性包帯を使用する。
  • 間欠的空気圧迫法(足を反復的に圧迫する装置を使用することにより、静脈血流を保つ)。
  • 早期リハビリテーション(術後早期の足関節自動運動、術後翌日より起立・歩行訓練など)を行う。
  • 血栓をできにくくする薬を使用する。
  • 脱水予防を行う。

入院後(麻生総合病院)

入院

手術は隣接の麻生総合病院で行います。手術前日に麻生総合病院に入院していただきます。
手術前に麻生リハビリ総合病院外来で必要な検査が終わっていれば、入院後の検査はほとんどありません。

手術準備

当日、腕に小さなチューブ(静脈ライン)を挿入いたします。
このチューブは、手術中に抗生物質やその他の薬を投与するのに使います。

手術室へ入室

手術は、手術室の中でも一番清潔度が高い“バイオクリーンルーム”という手術室で行います。

麻酔

手術室に入ると麻酔が行われます。麻酔は麻酔科専門医が行います。
麻酔はほとんど、全身麻酔+局所ブロック注射を行います。

皮膚切開

太ももの横の皮膚を切開します。

展開

筋膜、筋肉、関節包などを切開し大腿骨頭を前方へ脱臼させ、変形した大腿骨頭を落とします。臼蓋側(屋根側)を特殊な機械で削ります。大腿骨側も臼蓋側もインプラント(人工股関節部品)に合わせて骨の形を整えます。

インプラントの固定

骨の切除が済むと、インプラントを骨に固定します。インプラントを正確に設置するためにナビゲーションシステム機械を使用します。

確認

股関節をいろいろな方向に動かし、脱臼しないか確認いたします。

縫合

十分なイソジン入り生理食塩水で洗浄した後、切開した部分を縫合いたします。
抜糸が必要ないように、皮膚に特殊なテープ剤を貼ります。

手術終了

手術したところから自然に生じてくる血液などを外へ流し出すために、専用の廃液管(ドレーン)を傷口に挿入します。尿道には排尿のための管が入っております。
手術にかかる時間はおよそ1時間~2時間で、個々の状況によって変わります。

輸血について

手術中および手術後には、自己血で足りない時のみ、他人の血液から調節された輸血を必要とする可能性があります。

手術後

手術室内で手術した部位のレントゲン撮影を行います。
麻酔科医師が血圧や脈拍数、覚醒状態などをチェックし、問題がなければ回復室に向かいます。

病室へ

身体にモニターを付けて、全身状態の管理を行います。
手術翌朝から食事を開始します。

術後について

リハビリテーション

手術翌日から起立訓練、ベッド⇔車椅子の移乗動作訓練、可能であれば歩行訓練などを行います。

麻生総合病院から麻生リハビリ総合病院に転院

術後5日目で、麻生リハビリ総合病院に転院いたします。麻生リハビリ総合病院では、1日120分のリハビリテーションを行います。
どちらの病院でも、専門性の高いセラピストが最適なリハビリテーションを提供いたします。

リハビリテーションの種類

病室で
  • ベッドの端に腰掛け、脚を下に垂らす。
  • 歩行器を使った歩行訓練
リハビリテーション室で
  • 平行棒を使った歩行訓練
  • 松葉杖、杖を使った歩行訓練
  • 階段を昇る訓練
リハビリテーションのプログラム 例
  • ベッド上で足に力を入れるなど簡単な運動
  • ベッドの上で上半身を起こす
  • ベッドの端に座る練習

退院

T字杖歩行の自立、階段昇降、入浴動作などが可能となれば退院することができます。